近年では、これらの信頼性設計にもAI(人工知能)の活用が急速に進んでいます。特に生成AIの登場により、設計者が抱える情報収集や分析、文書作成などの業務が大きく変わろうとしています。
もちろん、AIが設計者に代わってすべてを判断するわけではありません。しかし、設計者の経験や知識を補い、より効率的かつ高品質な製品開発を支援する「パートナー」として期待されています。
今回は、AIを活用した信頼性設計の現状と、今後の可能性について紹介します。
なぜ信頼性設計にAIが求められるのか?
製品は年々複雑になっています。
例えば、
- 電気回路
- ソフトウェア
- センサー
- 通信機能
- モーター
- バッテリー
など、多くの技術が一つの製品に組み込まれています。
その結果、
- 故障モードの増加
- 部品点数の増加
- 評価項目の増加
- 試験データの増加
など、人だけで管理することが難しくなっています。
そこで期待されているのがAIです。
大量のデータを短時間で整理・分析できるAIは、信頼性設計との相性が非常に良い技術といえます。
AIが活躍する場面① FMEA作成支援
FMEAでは、
- 故障モード
- 故障原因
- 故障影響
- 対策案
を整理します。
しかし、ゼロから作成すると非常に時間がかかります。
生成AIを活用すると、
例えば、
「家庭用3DプリンターのノズルユニットのFMEAを作成してください。」
と入力するだけで、
- ノズル詰まり
- 温度センサー異常
- ヒーター断線
- 冷却ファン停止
などの候補を短時間で提案してくれます。
もちろん、そのまま採用するのではなく、設計者が内容を確認し、自社製品に合わせて修正・追加することが重要です。

AIが活躍する場面② 故障原因の整理
市場で不具合が発生した場合、
- 現象
- 発生条件
- 使用環境
- 試験結果
など、多くの情報を整理する必要があります。
生成AIは、
- 共通点の抽出
- 原因候補の整理
- 報告書の要約
などを得意としています。
設計者が見落としていた視点を提案してくれることもあり、原因究明の効率向上が期待できます。
AIが活躍する場面③ 信頼性試験計画の立案
AIは、
- 評価したい内容
- 使用環境
- 想定寿命
などを入力すると、
実施すべき試験の候補を提案できます。
例えば、
屋外で使用する電子機器なら、
- 高温試験
- 低温試験
- 温湿度サイクル試験
- 防水試験
- 防塵試験
- 振動試験
- 落下試験
などが候補として挙げられます。
試験項目の漏れを防ぐチェックツールとしても活用できます。
AIが活躍する場面④ 試験データの分析
信頼性試験では、
数千件、数万件のデータが得られることもあります。
AIは、
- 異常値の検出
- 傾向分析
- グラフ作成
- 統計解析
などを高速に行えます。
ワイブル解析などの統計手法と組み合わせることで、
寿命予測や故障傾向の把握がさらに効率化されます。
AIが活躍する場面⑤ 過去トラブルの検索
企業には、
- 過去の市場不具合
- クレーム
- 品質報告書
- FMEA
- 試験報告書
など、多くの技術情報が蓄積されています。
しかし、
「以前、似たような故障があった気がする…」
と思っても、探すのに時間がかかることがあります。
AI検索システムを導入すれば、
自然な文章で検索するだけで、
関連する資料や過去事例を素早く見つけられるようになります。
これは設計品質の向上だけでなく、技術伝承にも大きく役立ちます。
AIが活躍する場面⑥ 設計レビュー支援
設計レビューでは、
- 強度不足
- 温度上昇
- 部品干渉
- メンテナンス性
- 組立性
など、多くの観点から確認を行います。
生成AIは、
レビュー項目のチェックリストを作成したり、
「この設計で考えられるリスクは?」
といった質問に対して、多角的な視点から確認項目を提案したりできます。
レビューの質を高め、見落とし防止にもつながります。
AI導入で注意したいこと
AIは便利なツールですが、万能ではありません。
以下の点には注意が必要です。
AIの回答を鵜呑みにしない
生成AIはもっともらしい回答を返すことがありますが、内容が常に正しいとは限りません。
最終的な判断は、設計者や品質担当者が行う必要があります。
機密情報の取り扱い
製品図面や設計仕様、顧客情報などを外部AIサービスへ入力すると、情報漏えいのリスクが生じる場合があります。
社内ルールを整備し、必要に応じて企業向けの生成AIサービスやオンプレミス環境を利用することが重要です。
試験や評価を省略しない
AIが「問題ない」と判断しても、実機試験や信頼性評価を省略してはいけません。
最終的な品質保証は、実際の評価結果に基づいて行う必要があります。
今後の信頼性設計はどう変わる?
今後は、AIと設計ツールがさらに連携していくと考えられます。
例えば、
- CADデータから故障リスクを自動解析する
- FMEAを半自動で作成する
- CAE解析結果から改善案を提案する
- 市場故障データをリアルタイムで分析する
- センサー情報から故障時期を予測する
といった活用が一般的になるかもしれません。
さらに、IoTとAIを組み合わせることで、製品の稼働状況を継続的に監視し、故障の兆候を早期に検知する「予知保全」の実用化も進んでいます。
設計者に求められる役割
AIが進化しても、設計者の役割がなくなるわけではありません。
むしろ、
- AIへ適切な指示を出す力
- AIの提案を評価する力
- 製品特性や使用環境を理解する力
- 安全性や法規制を考慮する判断力
など、人ならではの知識と経験がこれまで以上に重要になります。
AIは「答えを出す存在」ではなく、「より良い答えを一緒に考えるパートナー」と捉えることが大切です。
まとめ
AIは、信頼性設計のあらゆる場面で活用が広がっています。FMEAの作成支援、故障原因の整理、試験計画の立案、試験データの分析、設計レビュー、技術文書の検索など、設計者の負担を軽減し、より効率的な製品開発を支援する存在になりつつあります。
一方で、AIは過去のデータや学習内容をもとに提案を行うため、最終的な判断や安全性の確認は人が担う必要があります。実機試験や設計レビューといった従来の信頼性設計の重要性は、これからも変わりません。
これからのものづくりでは、「設計者の知識・経験」と「AIの分析力」を組み合わせることが、より高品質で信頼性の高い製品を生み出す鍵となるでしょう。
本連載が、信頼性設計の基礎を学び、実務に活かすきっかけとなれば幸いです。

